前回の記事はこちら。
今回は、一般的に民主主義下ではどのように意思決定が行われていくかを整理する。
「新型コロナという感染症の危機下の意思決定とは一体どのように行われているか」を明らかにするため、そもそも平常時の意思決定はどのように行われているのかを整理しておきたい。
平常時と危機下では、意思決定にどのような違いがあるのかを明確にするために、第1章にこのテーマを設定した。
日本の政治制度のおさらいと着目点
簡単に日本の政治制度をおさらいし、どの部分の意思決定に着目しているかを整理しておこう。
簡単に概要を示したのが以下の図だ。
基本的には、赤枠で示した行政府内の意思決定過程を考察する。
災害等の対応は、基本的に行政を中心に意思決定が進められるからだ。
では、この行政府内をさらにプレイヤーごとに分けて詳細にみていこう。
第1章の全体像
本章の全体像を表したのが下の図だ。
民主主義である以上、主なプレイヤーは政治家・投票者・官僚の3人だ。
ポイントは以下の3点であり、今回の結論だ。
・彼らはそれぞれ異なった行動原理に基づいていること
・以上の行動原理の下、意思決定がなされているということ
・彼らの間には情報の非対称性があること
はい!今回言いたいことは以上です!
興味のある方は、さらに詳細にどのような仕組みで決まっているかを読んでみてください。
※私は政治家や官僚の皆さんを常に「きっと汚職している…」等とは毛頭思っていないし、経済学の考え方全てが正しいとも考えていない。社会を見つめる上では、常に冷静にニュートラルな視点でいたいと考えている。この点はご理解いただきたい。
※今回もエッセンス中のエッセンスを抽出しただけとなっております。
細かな議論や理論は大幅に省略しております。
民主主義下の意思決定とプレイヤー
民主主義下のプレイヤーは、政治家・それを選ぶ投票者・官僚の3人である。
細かくは、政治家と投票者、官僚と順番にみていこう。
政治家と投票者
政治家の行動と中位投票者
日本は間接民主主義を採用しているため、国民の代表である政治家を選び、その政治家に自身の考えや望みを託すこととなる。
政権を握ることとなる衆議院選挙は、小選挙区(比例代表)制の選挙だ。つまり、多数決によって多数派からの支持を獲得した候補者だけが当選できる。
投票者の中にはたくさんの意見や考えを持った人々がいるにもかかわらず、選挙で選ばれる政治家は1人だけだ。つまり、多様な人々の意見や考えは、選挙を通じて集約されていると考えられる。
集約されていく指標となるのが、中位投票者だ。
なぜならば、政治家は、中位投票者の支持を獲得していくことがより多くの支持獲得につながるためだ。
なによ中位投票者って?とお思いのはず。だが、意味はシンプルで本当に中央の位置に存在する投票者のことなのだ。
では、なぜ中位投票者の支持獲得が重要なのかを以下の図で考えてみよう。
ここでは、納税者が3人の世界を想定する。3人は等しい税金を払っているが、G1~G3までと希望する公共財の供給量は異なっている。
この時、2つの質問を順番にしてみる。
問1.G1より多い公共財の供給を望みますか?
納税者2と3は、G1より多い供給を望んでいるため賛成する。
1さんはG1以上を望んでいないため反対するが、2と3で過半数のためG2以上が決定的となる。
問2.G1以上に増やすとして、G2~G3どこまで増やす?
となると、1さんはG1に近いG2までの供給量にしようと考え、2さんは自身の希望通りG2に賛成する。
3さんは希望通りG3に賛成するが、1と2で過半数のためG2が今回の投票では決定となる。
これが選挙であれば、G2を供給します!と宣言した候補者が当選することとなる。
しかし、他の候補者も当選したいため、なるべく中位投票者の選好に近づこうとする。
このように、極端にかけ離れた公約やマニュフェストは少しづつ中位投票者の選好へ収束していく。また、政治家となった後も支持が得られるよう行動していくこととなる。
官僚の行動
政治家だけでは、投票者の選好を反映させた政策を実行に移せない。
なぜならば、実行面では在職期間の長い官僚の力が必要だからである。
官僚の行動原理は、基本的には予算規模の最大化だ。しかし、今後新型コロナ等の危機下の意思決定を分析する上では、この行動原理だけでは不十分であろう。
補正予算を組む際にはそうした行動を取ることも考えられるが、危機下ではそのような場面は非常に限られるためだ。
そこで考えられる官僚の行動としては、現状維持を志向するというものだ。
ライベンシュタインのX効率性の分析を官僚機構に応用した植村(2008)では、以下の図を用いてそれを説明している。
この図で最も効率的(最小の努力で最大の利益を得られる)な点は、横軸上のX0,縦軸上の点Mの点だ。官僚も経済主体であるなら、最も効率的な点を目指して努力するはずだ。
しかし、実際には現状の(X1)からX0に移動するための新しい努力をした後、得られる利益が少ない「割に合わない」状態のため、現状を維持することが合理的となる。
こういうのって会社でもよくある話よね。より良くするために新しいことをやりたくても、周りを説得したり動かしたりする労力が大き過ぎて挫折しそうになる話。
要はそんな感じ。
各主体間の情報の非対称性がもたらす問題
最後に、各主体間の情報の非対称性に関するプリンシパル・エージェント問題を紹介。
なぜここで取り上げておくかというと、危機下では情報の非対称性が拡大すると考えられるためだ。
今まで述べてきた三社の間には、プリンシパル(依頼人)とエージェント(代理人)の関係がある。しかし、プリンシパルは、エージェントが本当に自分の期待通りに働いているかを正確に知ることは難しい。
例えば、我々国民が官僚の行動を正確に知ることは困難だし、なによりそんなことしている暇があれば遊びたい。知ることにもコストが発生するため、情報の非対称性は生まれやすく、解決も難しい。
また政治家は、国民に代わって官僚の監視を担う部分があるものの、官僚よりも在職期間が短いため、情報上不利になりやすい。よって、官僚の働きを強く監視しようとすると情報を官僚から入手し難くなるかもしれない。
各主体間の情報の非対称性を解決することは難しいため、常に意思決定プレイヤーの間にはプリンシパル・エージェント問題が起きる可能性がある。
そして、感染症などの危機下では、常に変わる状況・専門的な知見などの必要性から、より各プレイヤー間の情報の非対称性は拡大することが想定される。
まとめ
途中の詳細なメカニズムは、難しい内容も含んでいるため
次回の危機下の意思決定との比較のために、結論だけ記憶して頂ければ幸いだ。
・民主主義下の意思決定プレイヤーは政治家・投票者・官僚の3人。
ポイントは以下の3点
・彼らはそれぞれ異なった行動原理に基づいていること
・以上の行動原理の下、意思決定がなされているということ
政治家は当選のために中位投票者の選好を反映しようとする
投票者の様々な選好は、選挙を通じて集約される
官僚は、予算規模の最大化・現状維持を志向する
・彼らの間には情報の非対称性があること
→プリンシパル・エージェント問題を起こす
次回は、感染症という危機下では、この意思決定がどのように異なってくるのかを考察してみたい。
では、本日はここまで。
<参考文献・参考URL>
・足立幸男(1998)『公共政策における非効率性 なぜ非効率は生まれるのか,その克服のために何をなすべきか』日本公共政策学会年報1998
・アリエ・L・ヒルマン(2006)『入門財政・公共政策 政府の責任と限界』井堀利宏 監訳勁草書房
・植村利男(2008)『官僚機構のX非効率の感性領域理論による考察』亜細亜大学経済学紀要32巻1/2号
・小池治(1996)『政策転換と官僚のビヘイビアー外国人労働者問題を事例にー』茨城大学政経学会雑誌, issue 64
・笹岡伸矢,福本博之(2012)『リスクと政治的選択ーゲーム理論を用いた2009年新型インフルエンザへの対応と分析』修道法学34(2)
・佐々木一如(2017)『エンドゲーム:危機管理と政策終了』ガバナンス研究(13)
・武村昌介(1982)『効率と公共部門についてー動機づけに関連させてー』岡山大学経済学会雑誌14(2)