珍しく映画を観てきた後の感想を綴ってみたいと思う。
※ストーリーにはほぼ触れないものの、微妙なネタバレありのため、鑑賞前の方はブラウザバックを推奨いたします。
作品は藤本タツキ氏の漫画が原作の「ルックバック」。
何故に珍しく映画レビューなんて書こうと思ったのか。
一番は映画がめちゃくちゃ良かったから。しかし、小難しい言葉や考察が並べられているレビューが多く、あまり共感できるレビューが無かった。
私は映画や小説などを味わった後、レビューが書いてあるブログなんかを読んで余韻に浸るのが好きなのだが、「ああそうそう!」となるレビューが少なかった。
何だかそのフラストレーションを吐き出したくて書き綴りたくなった。
早速、3つのテーマに分けてレビューを綴っていきたい。
あらすじ等は公式ホームページにも掲載されているため、そちらでご確認いただきたい。
※今回は文章メインの記事となり、長文でございます。ご容赦ください。
美しい映像と劇中曲
まず冒頭のアニメーションの美しさと音楽でぐっと惹きこまれた。
ヌルヌル作画とかそういうタイプではなく、まさに絵が動いている。でも、光の描写は妙に現実的でとても美しい。そこにこの曲。
そんな中で映し出されるのは、夜中に勉強机に座り必死に頭を捻りながら4コマ漫画を描く藤野の後ろ姿。「こんなに必死に机に向かったのっていつだったかな」と思わされる。
これでぐっと惹きこまれる。
みずみずしくて、でも決して淡くなどなく、暖かみがある美しい映像だった。
なんとこの映画は原画にそのまま色付けされる形で動いているらしい。
そして、その背景に流れるharuka nakamura氏の劇中曲がどれも美しい。
青春の中の楽しかった時、嬉しかった時、悔しかった時、どの瞬間を思い出してみても凄く眩しくて、みずみずしい気持ちみたいなものが溢れる事はないだろうか。
何だかそれがそのまま表現されているような美しさ。何度も鑑賞中「音楽ええなあ…」と沁みていた。
共感する挫折と喜び
「上には上がいる」
この挫折は誰もがどこかしらで1回は経験するものかと思うが、こと創作系でこれにぶち当たる辛さというのは本当に心に来るものがある。
素人なりに色々かじって写真とブログに落ち着いているが、実は一時期舞台演劇の脚本を書いていたことがある。中学時代の部活がそこそこ強豪の演劇部だったこともあり、どっぷりとその世界に浸かっていた時だ。
中学~高校の途中ぐらいまで、↓の投稿型脚本サイトに投稿したり、脚本のコンクール的なものにこっそりと応募してみたこともあった。
※投稿した脚本は私が「挫折」したことでサイトにログインしなくなり、運営ルール上非公開となっている。探しても無駄だぞ!
約60~80分を想定して書いていたが、一本の脚本を完成させるのには相当の時間がかかった。中には半年~1年を費やすものもあったが、時間を費やせば良いものが出来て評価されるかというとそうではない。
見向きもされないことがほとんどなのだ。渾身の出来だと思い投稿したり、送ってみても読まれすらされない。
一方で自分の作品よりも遥かに出来の良い作品は、当たり前のように目に入ってくる。
まあこれが来る。悔しくて本を読み漁ったり勉強もしてみたりするのだけれど、何も状況は変わらない。
そして、ある時ぷっつり切れるのだ。理科の実験でアルコールランプの火を蓋をして消すのと同じようにして、自分で火をさっと消してしまう。
しかし、1人でも自分の作品を褒めてくれたり、気にかけてくれるだけで創作意欲は急に湧く。私の脚本にも「とても感動した」とコメントをくれたり、とある学校から上演依頼が来たりしたことがあった。
もう飛び上がるほどに嬉しかった。
だから、藤野の挫折と、「上」と思っていた京本からの言葉と「雨の中の舞」は心底共感できた。
この共感は、特に藤野へ感情移入せざるを得ず、これが映画終盤一気に感情を揺さぶられる要素ともなった。
懸命に抗い進もうとする姿に心が打たれる
美大での事件後、絶望する藤野。
そして、京本の部屋で「京本の言葉」通りに振り返ると、扉に藤野のサインが書かれたはんてんが掛かっている。
京本は部屋から出るたびに、初めて部屋から出た時にもらった藤野のサインを見ていたのだ。藤野は京本を部屋から出さなければと後悔していたが、「そんなことは全くないんだよ」と京本が語りかけているように思えて涙がぐっと溢れた。
そして、描く意味を見失いかけた藤野は、描こうと思った原点を「振り返り」、思い出したことで歩き始める。
「ルックバック」のタイトルの意味合いを怒涛の勢いで畳みかけながら突きつけられる。
この絶望に懸命に抗いながら描き続ける藤野の背中が、エンドロールと共に映し続けられる。そこにこのLight songが流れる。
少しづつ日が暮れて時が進む中でも描き続ける藤野の背中を見ていると、自然と涙がすっと流れる。
エンドロールが終わり、恐ろしく長い余韻がずっと心の中に響いて、「ああ…良い映画観れたな...」という思いを噛みしめる。
最終的には自分もまた「惰性ではなく、自分なりの原動力を持って進みたい」と強く思わせてくれる。
エキサイティングに心を踊らされる作品ばかり観てきた気がするが、こうまでエモーショナルな意味合いで心を動かされる作品は、自分の中では久しぶりだった。
最後に
ということで私は本当にこの映画を観れて良かったと思っている。
しかも、これがアラサー手前のある程度の大人の段階で観られて良かった。挫折の数が多いだけこの作品は響くように思うから。
そういえば、ルックバックと耳にして最初に思い起こすオアシスの名曲。
原作漫画にもこの曲を示唆するような表現がある模様。
直訳すると「怒りの中で振り返らないで」。
確かに「怒りにとらわれて後ろばかり見ていないで、前を向いて進もう」ということをこの曲は歌っていて、京本からのメッセージとも、藤野の決意ともとれるような気がする。
いやはや改めて「ルックバック」のタイトルを冠した藤本タツキ氏すごいですな。
原作もこれから読んでみよう。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
では、本日はここまで。
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